オーケストラの譜読み
オーケストラの譜読みについて、どうすれば良いのか、自分なりに長いこと考えてきました。
音大生向けに、オケの譜読みでは何が必要か、書いておきます。
「オケの譜読みをどうやっているの?」、と周囲のオケマンに聞いても、何でなのか、あんまりみなさん手の内を明かさないんですよね。恥ずかしいのかなあ。
オケで上手に弾けるかどうかの9割は、事前準備・練習にかかっています。
私の考えでは、オケの譜読みでは3ステップ必要です。
@パート譜を弾けるようにする
Aスコアを見ながら曲を聴く
Bパート譜を見ながらスコアを思い出しながら弾けるようにする
この3ステップを行えば、プロオケであっても恥をかかずに弾けるようになります。
オケの練習が始まる前の事前準備の参考になさってください。
ipadとスキャナーでpdf化するのがおすすめ
私は、ipadのgoodnotes5というアプリで、pdfの譜面に書き込みをして、覚えるようにしています。
少なくとも私の場合は、書くと覚えられるので、メモを書いています。
弦楽器の場合は、2人で1つの楽譜を見ます。
それゆえ、好き勝手に譜面にごちゃごちゃ書くことは出来ません。
自分だけの好きに書ける譜面を用意するのが大切だと思います。
私の家では、BrotherのMFC-J6983CDWというプリンターを持っています。
スキャン機能がついていて、楽譜を読み込んでpdf化することが出来ます。
5万円弱と高いですが、スキャンをすると余計な紙の楽譜を捨てれますので、買ってよかったと感じています。
セブンイレブンのコピー機でも、USBメモリーなどを持っていれば、スキャンすることは可能です。
スキャンしたら、パソコンにpdfデータを移して、pdfをgmailで送り、ipadでダウンロードする、という手順を踏んでいます。
@パート譜を弾けるようにする
大事なのは、パート譜をとりあえず弾けるようにすることです。
音大生の時は「俺はコンクールの練習で忙しいから、オケの譜読みなんかやってらんねーんだよ!ケッ!!!」と思っていたでしょうが、プロオケではそうはいきません。
パート譜をしっかりと練習しましょう。
ヴァイオリンで大事なのは、指使いをとりあえず決めることです。
曲の中では、弾きにくい速いパッセージが数ヶ所は出てきますが、弾きにくいところの指使いを決めるのが大切。
地獄のように速くて弾けない箇所は、自分なりの指使いを決めないと、永遠に弾けません。
「この指使いなら何とか弾けるな・・・!」
となるように、頑張って指使いを早めに考えます。
とりあえず指使いを考えたら書く、それでまた弾く、また別の指使いを思いついたら書く、弾いてみてどちらが良さそうかとりあえず決める!
とにもかくにも、指使いをどんどん決めましょう。多少おかしくても良いから、決めるのよ。
初見の時に音を間違えたり、リズムを間違えたりしたところは、実際のオケの練習でも間違えやすい場所となります。
最初に練習して、うん?間違えたな?というところは、指使いを書いたり、メモをしたりして、気を付けると良いかもしれません。
一度でも間違えたところは、おそらくあなたの弱点です。
私は、1ページに2〜3か所くらいメモを取ることが多いです。難しい曲なら、もっと多いです。
シャープやフラットを間違えたり、リズムを勘違いしやすそうだったりするところは、メモすると良いです。
あと、よく見ないと何の音かわからない場所、もなるべく記憶しましょう。
「これミなの?レなの?あ、ミか。」と、演奏中に考える時間はないわけです。
「この見にくいやつは、ミだ」と記憶します。
私は眼鏡をかけた矯正視力が0.6〜0.7なので、細かくて見にくい箇所は、音と指使いを記憶するようにしています。
最初のフレーズでは2分音符、次も2分音符、3回目は突然全音符になる、など、引っ掛け問題のようなリズムが出てきた時も、メモしておくと良いと思います。
同じメロディーなんだけど、8分音符2個、8分音符2個、でずっと来ていて、次のページでは突然付点になる、とかも引っ掛かりやすいです。
オケの練習までに、練習時間がどうしてもとれない時は、パート譜を一通りさらうだけでも大丈夫です。
ただし、パート譜がとりあえず弾けるという状態は、オーケストラ奏者としては不完全です。
ステップ@だけ終わった状態でいくと、ステップBまで終わらせた人から見ると、パート譜しか練習していないのは丸分かりです。
管楽器のメロディーが少しだけ揺れて伸ばした時に、反応できず先に入ってしまいます。
つまりスコアが分かっていないことがバレます。
Aスコアを見ながら曲を聴く
スコアを見ながら、音源を聴き、オケ全体を理解していく作業が、オケを深く知るのに大切です。
3ステップの中で、ここが一番大切です。
聴こえた部分が、あれ?自分の思ったリズムと違うな、と思った場合は、なるべく曲を止めてもう一度聴いて確認しておくと良いです。
「今の音は何拍目なんだ?」と思ったところは、チェックしておきましょう。
「ここは、いくつで振るかな?4つかな?テンポが遅いから2つかな?」と考えながら聴きます。
テンポ感や、どこで緩急がつくか、把握しましょう。
スコアを見ながら聴くのは、基本的には1回でも良いですが、個人的には2回やるとかなり理解度が上がる気がします。
協奏曲の場合は、自分の譜面の練習よりも、ソリストの譜面を覚える方が重要度が高いです。
オケ側がソロを覚えてあげないと、ソロが自由に弾くことが出来なくなってしまうからです。
結構時間がかかってめんどくさい・・・ですが、なるべく頑張ってやりましょう。
3時間超えのオペラだと、1回通して聴くのすら正直めんどくさい・・・(正直やってない時もある・・・)
ですが、なるべくやりましょう。
私はyoutubeプレミアムを契約していて、上記のようなスコア付きの動画をスマートフォンにダウンロードして、電車の中で聴いたりしています。
初日の練習に行く電車の中で確認すると、頭の中が整理されてとても良い感じです。
youtubeのスコア音源を聴きながら、パート譜にメモをとっていくと、時短になります。
スコアを見るといっても、主要なメロディーを追うだけです。
全パートを見るわけではなく、大事なパートを1つ(または2つ)探して、目で追っていくようにします。
18年前ですが、白井圭さん(元N響コンマス)が、誰よりも弾けているのに、シベリウス2番を聴きながら熱心にスコアを読んでいました。
既に、圧倒的な理解があり、誰よりも弾けているのにも関わらず、より細かいところを理解しようと、知っているところはより確固たる記憶にしようと、スコアを読んでいるのです。
世界的カルテットのヴィオラ奏者で、「何回もやった曲でもスコアを見ると、毎回新しい発見があるんだ」という記事を見たこともあります。
世界トップクラスの音楽家でもスコアを見るわけなので、凡人の私がスコアを見ないのはおかしいと思うようになりました。
オケで大切なのは、他のパートを覚えることです。覚えれば覚えるほど、良いです。
Bパート譜を見ながらスコアを思い出しながら弾けるようにする
パート譜には、他のパートのことはほとんど書いてありません。
自分のパート譜を見ながら、主要メロディーを思い出せるようにするのが、3ステップ目です。
曲の理解度が高まると、テンポ感が分かりますし、パート譜を弾く時の音色のイメージも定まり、より上手く弾けるようになります。
自分のパートの出だしが休みの時は、休みの時に誰がどんなメロディーを弾いているのか記憶する必要があります。
長い休みがある場所では、誰がどんなメロディーを演奏しているのか、ある程度覚えておく必要があります。
非常に長い休みでは、自分が出る数小節前で目印になるものを探しておかないとならないでしょう。
「自分たちの3小節前にヴィオラが出て、1小節前の3拍目の裏にチェロが出る」などと記憶するわけです。
何の音を弾くか、まで、記憶しておくと、迷いにくくなります。
「チェロが、ソラシドと弾く。チェロのドと、ヴァイオリンのソが合う」
などと覚えておくわけです。
自分が1拍目で、管楽器が1拍目裏、など、リズムがズレなくてはいけない場所は、自分の楽譜にメモしておくと良いかもしれません。
「指揮者が入る場所の合図を出してくれるだろう」、とか、「首席奏者が合図してくれた時に弾けば良い」、という考えは、あまり褒められたものではありません。
オケでお金をもらおうと思うなら、なるべく曲を理解して弾きましょう。
指揮者と違って、スコアの隅から隅まで覚える必要はありませんけれども、一定の楽譜の理解は必要です。
自分「管楽器ずれてるよ」
管楽器「いやいやこっちは1拍目の裏だから」
となったら、赤っ恥をかくだけです。自分の勉強不足を晒すだけです。
特に、拍の裏でメロディーが動く時に、気を付けて覚えておかなければいけませんね。
例えば、ティンパニーを1発待ってから、和音を弾く場所などで、ティンパニーと一緒に出たりすると良くないですよね。そういう時は、ティンパニーを一発待つ!と思って弾くことです。待ちすぎると遅れちゃうけどね。
スコアを理解すると、どこからフレーズなのか、クレッシェンドの始まりがどこからなのか、など細かい部分まで理解できるので、表情がつけやすくなります。
例えば、
「自分がクレッシェンドの始まりだと思っていたら、実は2小節前のチェロが入ってくるところがクレッシェンドの始まりだった。」
とか。
「だったら、クレッシェンドの途中なんだから、あんまり弱く始めたらおかしいよな。mfくらいで弾き始めても大丈夫そうだな。」
などと、判断していくことができます。このような判断が、自分なりの楽譜の解釈につながります。
これらの3ステップの練習中に、フレーズを見つけたり、表情を考えたりするのは、当然やります。
私のipadでは、パート譜でメロディーが思い出せるように、カタカナで音名をごちゃごちゃ書き込んでいます。正直かっこ悪いですけれども、誰も見ない自分だけの楽譜です。
音源を流しながら、弾けるようになると、かなり理解度が高い状態と言えると思います。
音源を流さずとも、頭の中でメロディーを思い出して弾けるようになると、完成かな。
練習や本番では、書き込みの少ないボーイングだけ書いてある譜面を見るので、とにかく頭の中に記憶して叩き込むのが大切です。
オーケストラの中で迷ったら、その部分を確認する
3ステップが終われば、実際のオーケストラの練習に行き、その場での雰囲気などでどう演奏するか判断することになります。
弾けるようにしてから練習に行くと、演奏に必死にならないため、脳も相当ラクができるはずです。
「間違えるかもしれない」
という妙なプレッシャーも減りますし、周りの音を聴く余裕が生まれるはずです。
家で練習する時間はとられますが、練習して行った方が、生活のクオリティが上がります。
コンサートマスターが指揮に対してどのようなタイミングで出るのか、どこのセクションがリーダーシップが強いのか、誰がオケのボスなのか、演奏面で頼れるミスの少ない人は誰なのか、など把握していくのも大切です。
オーケストラの中で弾いて、ちょっと迷ったな、ここの管楽器のリズムが分からないな・・・という場合は、練習番号や、ページを覚えておいて、スコアを後で確認しておくと良いです。
ちょっとした違和感を見落とさないようにしましょう。
とても大切なのが、ゆっくりになる場所のチェックです。
自分が思っていた以上に遅くなったり、普通は間をあけるところであけなかったり、と、予想外のところをチェックしましょう。
もちろん、音の記憶違いがあったところはメモします。一人だけ違う音を弾くと、濁りますから。
特に、自分一人だけ思いっきり飛び出してしまった、みたいなところはかなり注意して記憶します。
出来るだけ、同じミスは2回しないように気を付けましょう。
多分ですが、同じミスをしないかどうか、見られてます。
応急処置的な小技ですが、上手く弾けない場所は、とりあえず少し弱い音で弾きましょう。
間違った音を全開で弾くのは周りに迷惑がかかるのでアカンです。
ミスした場所、自分がミスしやすいと思われる場所は、少し弱く弾くと良いかもしれません。
ミスしやすい場所こそ、スコアの理解をして、どの楽器のどの音を聴けば、上手く入れるのか考えてみましょう。
その他の練習
音源を聴きながら、簡単に指揮を振ってみるのも練習になります。
苦手な部分だけ、頭の中で音を鳴らすのも練習になります。
曲の書かれた背景なども、知っておくと良いでしょうが、正直に言うと必須ではありません。
他の人が間違えている場合は・・
他の人が明らかに勘違いをして演奏している時は、指揮者が指摘するのを待つか、自分から指摘するか、諦めて何も言わない、の3パターンになります。
余計なトラブルを避けるために、ほとんどの人は指摘しないことが多いかなと思います。
オケのレベル低下を防ぐために、コンサートマスターは他の人よりもしっかり準備して、あまりにまずいところはコンマスとして指摘しなければならないでしょう。
自分が間違えている時がありますから、音が濁ったら自分が間違えているのではないか?と注意して見直しておくと良いかもしれませんね。
終わりに
ある程度の練習をしないとオーケストラの中できちんと弾くのは無理です。
「初見で来る俺カッコイイ」
みたいな時代は、ここ10年くらいで緩やかに終わったと感じています。
「ちゃんと練習してこいよ・・・!」
という雰囲気が強くなり、日本のプロオケのレベルは上がっているのではないかと思います。
月に28日稼働しているような非常に忙しいオケでは、スコアを見る時間的、体力的な余裕がないかもしれませんが、普遍的なレパートリーであるベートーヴェンとかブラームスのような、人生の中で何度もやる曲は、スコアを見て覚えていくと、弾くのが加速度的に楽になっていきます。
一度スコアを理解しておくと、もう一度弾く時に、思い出しやすくなります。
スコアの理解がないと、反射神経で何となく弾くところがどうしても出てきます。
よく弾く曲は、スコアを1〜2回見ておきましょう。
ipadでデータを残しておくと、間違いやすい箇所のデータが溜まっていきますので、より少ない時間で思い出しやすくなります。
ipadのgoodnotesは、icloudやgoogle driveへの自動バックアップ機能があるので、個人的にはおすすめです。
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