指揮者について、私が思うこと

(2024年追記:7年前くらいに書いたものですが、とてもキャッチーな題名で挑発的だなあと思いました。気を悪くした方すみません。)

 

わたしは、プロオーケストラで8年ほど働いております。

 

年間に50人近くの指揮者と出会い、仕事をしています。

 

オーケストラ団員が、指揮者に対して思うことを書いていきます。

 

 

指揮者とは、オーケストラを右手と指揮棒、体の動き、顔の表情でもって、コントロールする職業です。

 

クラシック音楽界の中で、最も儲かる花形の職業であり、競争も厳しい、かなり大変な職業です。

 

1回の演奏会で、30万円〜100万円単位のギャラが入ることも、珍しいことではありません。

 

日本のプロオーケストラの中でも、トップ御三家の一つと言われる読売日本交響楽団の指揮台に立とうという方は、かなり厳選されています。

 

それでも本物の指揮者は少ない!

 

「良い指揮者は本当に少ない!」
といつも感じます。

 

8年前に入った当初は、「良い指揮者が少ない」なんて演奏技術がない年寄り楽員の言い訳だと思っていました(笑)

 

「どうせ自分が楽器をロクに弾けないから、弾けないのを指揮者のせいにしようとしているんだろう」
と思っていたのです。

 

しかしオーケストラ経験を積み、目が肥えてくると、指揮者のレベルもかなり正確に把握できるようになってきました。

 

要するに、年々、私は性格が悪くなっていくというわけです・・・

ズレている指揮者

ほとんどの指揮者は、よく勉強し、オーケストラに対しても適切な指示を出します。

 

アンサンブルがズレてしまった時に

 

「ここはオーボエ中心に行きましょう」
「弦楽器は少し押さえて、テーマを出しましょう」

 

など、アンサンブルに適切な指示を出せるのは、良い指揮者です。

 

しかし年に1〜3人は、意識がズレている、意識だけ高い系の指揮者がきます。

 

棒のテクニックが低く、音楽的な教養・素養が低い、と感ぜられる指揮者が・・。

 

知識だけではだめで、指揮棒に音楽の魂が乗っていなければならないのです。

 

 

私たちプロオーケストラ奏者が、最も嫌うのが、

 

「指揮者の俺が、オーケストラ団員に音楽を教えてやっている」

 

という勘違いをしてきている指揮者です。

 

自分の音楽の理想ばかり高くて、肝心の指揮のテクニックは全然だめという人が、プロオケにも来ます。

 

 

 

指揮台に立つ、それがリーダーの仕事なのは、間違いありません。

 

ですが、偉そうな態度をとってよい、ということではないのです・・。

 

「俺の音楽を伝えてやるぜ!」
という意気込みがあるのは、大変良いことなんですけれどね。

 

レベルの低い指揮者ほど、

 

「うーんなんか違うんだよなー。もっときれいな音出ません?」
と自分の指揮テクニックが悪いのを棚に上げて、オーケストラにトンチンカンな指示を出してきます。

 

こうなったら、もう最悪で、どんどんオーケストラの音が悪くなっていきます。

 

なぜなら、

 

オーケストラは感情で動くから!

 

指揮のテクニックレベル・指揮者の音楽レベルが低いから、オーケストラから良い音が出ないのです。

 

【口で説明すれば分かってくれる・言った通りにやってくれる】というのは、指揮者の大きな勘違いです。←ここテストに出ます

 

僕たちが指揮者の悪口を言うとき
「口を動かさないで、棒でやれ(お前の指揮テクニックが悪いから、お前の思った通りの音が出ないんだよ、の意)」
という定番の文句があります。

 

大学時代に、指揮の先生が、指揮科の学生に
「口を動かすな。バトンで示せ。」
と指導しているのを、何度も見ました。

 

素晴らしい指揮者である尾高さんも
「いい指揮者になりたければ喋るな」
とよく言っていました(笑)

 

指揮者たるもの、指揮棒で音のイメージ・音色・リズム感を示さないとダメ!(`・ω・´)

 

 

私たちオーケストラ団員1人1人にも、音楽の理想がそれぞれあり、指揮者の理想とは当然異なります。

 

 

「今回は、このようなやり方で音楽を作ってください」
というのは、すんなりと理解できます。

 

しかし、
「なんでこう出来ないのか」
という言い方をされると、やる気が激減してしまいます・・。

 

オーケストラ団員の心をつかまないと、オーケストラは指揮者についてきません。

 

言葉遣いも、よく吟味してほしいなーと思います。

 

細かいことですが、
「ここはピアノで結構です」
ではなく

 

「ここはピアノでお願いします。」
と言った方が、やる気を失わせませんね。

 

「結構です」
というと、本人にその気がなくとも、上から目線のニュアンスを感じられます(私が神経質なだけかも!?)。

 

それでも、些細なことの積み重ねが、良くも悪くも、演奏に大きく影響します。

指揮者とオーケストラ奏者の力関係

指揮者に関して、間違いなく言えるのが、

 

良い指揮者は、オーケストラの音楽的レベルを超えている

 

ということです。

 

 

指揮者の音楽的レベルが低すぎると、オーケストラ団員は指揮者のことをバカにします。
性格が悪くてすいません。でも事実です。。

 

レベルの低い指揮者がくると、オーケストラの士気が大幅にダウンします。

 

 

「この人のために頑張りたい!」
と思わせてくれる指揮者でないと、本物の指揮者ではないですね。

 

 

ウィーンフィルなどは、「指揮者はオーケストラよりも格下」という意識が非常に強いオーケストラで、ウィーンフィルの指揮台にのぼると楽員からのプレッシャーが半端ないようです。

 

ウィーンフィルは伝統のあるオーケストラですから、「自分達のやり方でやる、指揮者は踊ってろ」という意識なんだそうです(半分本当で半分冗談でしょうが)。

 

とは言っても、ウィーンフィルの指揮者は、ウィーンフィルの団員が呼ぶので、仲間になり得る指揮者を呼んでいると思います。

 

世界五指に入る指揮者といわれるティーレマンでも、ウィーンフィルの指揮台ではガチガチに緊張しているのだとか・・(笑)

 

 

日本でも、NHK交響楽団を筆頭とした、レベルの高いオーケストラほど、指揮者にとって怖いものです。

 

それはなぜか。

 

やっぱりオーケストラのレベルが高いほど、
良い指揮者をたくさん知っているし、指揮者よりも曲をたくさん知っている、指揮者なんかいなくても良い音楽ができるからです。

 

ほとんどの指揮者よりオーケストラのレベルが高い理由

ほとんどの指揮者よりも、オーケストラ楽員のレベルが高いのには、教育的な背景があります。

 

 

プロオーケストラ奏者ともなると、一人一人が過酷なオーディション(100人中1〜2人)を勝ち抜き、年間100公演以上の演奏会に出演しています。

 

本格的に音楽を勉強している楽器奏者の中から、さらに最精鋭の人間が選び抜かれて選ばれているのです。

 

しかも、オーケストラ経験も何十年も積んでいるので、オーケストラ演奏に対する自分たちの誇りもあります。

 

全国上位1%レベルの猛者集団と、指揮者は対峙しなくてはならないのです

 

 

私たちバイオリン奏者は3〜5歳から始めています。

 

しかし、指揮者で「高校から指揮の勉強を始めました」というのはよく聞く話です。

 

専門教育を受けている期間があまりに違いすぎていて、その音楽的レベルの差を埋めることはほぼ不可能に近いのです。

 

多くの指揮者は、絶対音感もありませんし、ソルフェージュ能力に長けている人も少数です・・。

 

指揮者が説明のために軽くメロディーを歌うと、音程が取れていない音痴な歌で歌っているケースが結構あります。

 

「ソソソミーー」
と言いながら、
実音がミミミレーのような、めちゃくちゃ音痴な歌を聴かされると、悲しくなります。

 

せめて相対音感で歌ってくれればマシですが、相対音感すらないリズムだけの歌を聴かされることすらあります。

 

「そんなに音痴なら頼むから歌わないでくれ」
というのが、ワタクシの本心です。

 

音痴な指揮者は、微妙な和音の音程のズレにぜんぜん気付かないし・・・。

 

音程感覚は、6〜10歳くらいまでにある程度身に着けておかないと、一定水準のレベルに達しません。

 

指揮の才能がある人でも、遅く勉強を始めた人がくると、
「この人がもう少し音楽の勉強を早く始めていれば、もっと凄い指揮者になれただろうに・・」

 

ともったいなく思うこともあります。

 

ソルフェージュ能力は、全ての音楽家にとって最も大事なのですが、小さい頃からきちんとやらないと、高いレベルの耳が育ちません。

 

 

オーケストラ団員は、本物の音楽にずっと接しながら、楽器をやっている人間です。

 

指揮者もオーケストラ団員も、音楽を学んでいるのは同じです。

 

やっているのが、指揮でなくて、たまたま楽器だったというわけ。

 

 

全国トップレベルのプロオーケストラ団員が、レベルの低い指揮者に偉そうに指示されると、ちょっとだけカチンとくるというのは、ご理解できるのではないでしょうか・・・。

 

 

小さいときから音楽に接していた指揮者は、やっぱり違います。

 

世界的に活躍できている指揮者は、声楽出身の指揮者(小林研一郎先生とか)、ピアニスト出身の指揮者(スクロヴァチェフスキさんとか)、小さい頃から音楽をやっている人が多いのではないかと思います。

 

楽器や声楽をやっていて、たまたま何かの機会に指揮を振ってみたら、めちゃくちゃ良かった!
ということで、指揮に転向する人も、意外と多いようです。

 

 

20歳くらいで指揮の勉強を始めて素晴らしい指揮者になった下野竜也さんのような方もいますので、ソルフェージュ能力うんぬんより、リーダーシップとカリスマ性の方が大事かもしれません。

 

指揮者を目指す方へ

指揮者は大変な職業です。

 

はたから見れば棒を振っているだけですが、あらゆるソルフェージュ能力が長けていないといけませんし、リーダーとしての資質も必要です。

 

私が通っていた時、東京芸術大学では、指揮者の同級生は7人くらいいましたが、全くといっていいほど活躍していません(たぶん・・)。

 

芸大の指揮科の学生が20人いたら、1人活躍していたら良いほうです。

 

運よく一度プロオーケストラの指揮台に立てても、二度と呼ばれない可能性の方が高いのです。

 

政治家に必要なカリスマ性・リーダーシップも必要なので、本当に自分に向いているかどうかをよく検討された方が良いと思います。

 

カリスマ性という意味では、小林研一郎先生は、政治家になってもすごく上手そうです。

 

一念発起して指揮者を目指すのも良いですが、かなり厳しい現実が待っている可能性が高いことをよく知っておいてください。

 

それでも指揮者を目指す方は、本当に頑張ってください。

 

人を動かす心理学なども知っておくと、指揮にも良い影響があると思います(^-^)

 

プロオーケストラ楽員はプライドが高いので、それを利用しておだてながら指揮すると良いかもしれません(笑)

 

媚びを売った方が良い、ということではありません。

 

オーケストラと良好な信頼関係を築けると、良い音楽が引き出しやすくなると思います。

 

よくバトンテクニックを研究し、運よくプロオケに行けたら、オケ奏者からもフィードバックをもらうと良いと思います。

 

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