プロオーケストラのオーディション

同級生から、面白いアンケートが届いたので、やってみます。
内容は、「オーケストラ奏者から見るオーケストラのオーディション・オケスタについて」
協力してる側だから、勝手に公開しても大丈夫だよねっ。

オケで求められること

1. ソロで求められていることと、オケで求められていることの違い。

 

ソロで求められるのは、唯一無地で、自分にしか出せない音色、ヴィルトゥオーゾテクニックなど、圧倒的な表現力が求められると思います。誰よりも完璧で、美しい、素晴らしいバイオリニストだということを証明しなければならない。これはライナーホーネックさんがインタビューで答えていたこととほとんど同じですが・・・。
オケで求められるのは、当然表現力も必要ですが、調和すること、周りと一体となって演奏することが大切なのだと思います。例えば自分のテンポが絶対だ、と思って、自分だけ好きなテンポで演奏してしまうと、和を乱してしまいます。周りに協調して演奏する能力が必要だと思います。
自分が上手く演奏するのではなく、オーケストラ全体として上手で美しいサウンドにならないといけません。あまりにも周りに流されてしまうのも、考え物ですが・・。

 

 

2. 入団するためにオーディションがある理由

 

オーディションがある理由は、オーディションという形式で、オーケストラの団員の半数以上から支持されて入団した、という実績が大切だから、と考えています。大学の入試と同じだと思います。
オーディションで入団した人には、ケチをつけにくい、というのが利点だと思います。

 

 

3. オーディションで求められていること

 

まず、美しい音色であることです。テンポ感がよく、リズムも正確で、転ばない、走らないことが大切だと思います。
特に休符をしっかり数えているか、がかなり大事だと思います。休符は気持ちゆっくりめにカウントすると良いと思います。オーディションの時は、緊張して、テンポ感がかなり速くなりますから・・。
あとはギトリスみたいな音色でない方が良いですね。ギトリスは20世紀・21世紀を代表する世界的な素晴らしいバイオリニストですが、音色も独特、リズムもアゴーギクが強く、オーケストラ向きではありません。
正確な音程、正確なリズム、美しい音、これが前提ですね。その上で光るものを感じさせる演奏だと、票が入ります。

 

 

 

4. オーディションの多くでモーツァルトの協奏曲が課題に出る理由

 

リズムのアラ、その人の出す音色、などがバレる、というのが一番大きいと思います。
いわゆるスタンダードな、オーケストラ向きの音色が出せるか、というのを見るのだと思います。
ジプシーのように自由自在ではなく、キッチリカッチリ弾けるか。
オケ中では、指揮者やコンマスの指揮下で演奏しますから、あまり好き放題に演奏されると困っちゃうわけです。
それでいて、とてつもなく美しい音色で弾いてほしいですね。

 

 

5. オーディションで演奏するときと、実際オケの中で弾くときの違い

 

オーディションでは、場所にもよりますが、かなり広いところで1人で弾きます。ppの所で、本当に小さな音で弾くと聴こえません。
オーディションだと、聴く側も疲れていますから、よっぽど上手くないと票が入りません。
なるべく大きい音で弾くように私は心がけていました。読響のオーディションに限っていえば、音がでかい方が、票が入りやすいです。
そして、テンポの感じ方を、体の動きで表現するようにもしていました。

 

実際にオケ中で弾く時は、ppの部分は信じられないくらい弱く弾くことも多いです。
バイオリンソロだとカスカスの音だ、と評価されるような音で弾きます。
「ppは隣の人の音しか聴こえない音量で弾け!ffは自分の音しか聴こえない音量で!」と澤先生が言っていましたね。

 

 

6. オケスタの勉強方法、取組み方等(細かく書いて頂けると助かります。)

 

まずその曲を聴きまくることです。私はオケスタ出題部分を抜粋したMDを作っていて、1日中エンドレスで聴いていました。曲を聴いている回数なら、受験者の誰にも負けなかったと思います。寝る時も聴いていましたが、さすがに気になって寝れないので、途中で消しましたが・・・。
そして、MDと一緒に演奏したりもします。スコアを見て、どこがメロディーかなどを把握するようにしていました。
MDを消して、一人でオーケストラを感じながら演奏もします。オーディションは当然一人で演奏しますからね。
「オーケストラ全体で演奏しているように、オケスタを演奏しろ」とN響茂木さんの書籍に書いてありました。

 

7. オーケストラプレイヤーとして求められる能力

 

オーケストラプレイヤーとして求められるのは、やっぱり調和でしょうか。さきほどと重複しますが、音色が周りと調和することが大切だと思います。あとは人間関係を良好に保つ努力をした方が良いと考えています。
人間関係が良好なオーケストラの方が、気が楽ですし、演奏していて楽しいですからね。

 

8. オーケストラプレイヤーとしての志し

 

これはかなり難しい質問です。
最近は、いかに今のバイオリンの技術を落とさないようにするか、を大事にしています。
後輩が入ってきた時に、「この人全然弾けないな」と思われたら悲しいですからね〜。

 

あとはもっといろんな曲を知りたいです。ブルックナーやマーラー、ショスタコーヴィチの交響曲も全て制覇したいな。

 

 

9. 他に気づいたことがあれば

 

なし!全部書いたと思います。

オーディションでは音楽的に揺れない方が良い?

追加の質問がきました。
Q.オーディションではあまり音楽的に弾き過ぎないほうがよい(音楽的な揺れなど)という意見を何度かヨーロッパで聞いたことがあります。
たとえば、シュトラウスのドンファンの冒頭など、実際のテンポで弾くことが果たしていいことなのか、など。

 

 

ドンファン冒頭「ソラソドミソドミーーーーー(長い)ーーーーーーファソラシ!」など、特定の音を音楽的に長く弾く、ということかな?指揮者のテミルカーノフとか、音楽的にかなりルバートしますけどね。テミルカーノフは素晴らしい。
だけど、オーディションでは、テンポは揺らさない方が良いと思います。基本的に、表記にないルバートはしない方が良いと思います。
指揮者の10人中9人がルバートするような慣例的な場所は、ルバートした方が良いと思いますが。

 

※ルバートとは、テンポを揺らすことです。テンポが遅くなるように、少しだけリズムを崩します。特定の音を長くしたりします。

 

曲のテンポに関しては、ベルリンフィルを参考にしていました。ベルリンフィル、ウィーンフィルのCDだと、信頼度はやっぱり高いですね。古すぎない録音の方が良いです。フルトヴェングラーなど、テンポが現代より遅い録音は、あまり参考になりません(オーディション対策としてはという意味です)。
フランスのオーケストラを受けるなら、パリ管弦楽団を聴くべきだと思います。フランスのオケは、他の国と違うらしい・・。

 

 

オーディション前に、友人がベートーヴェン第9の3楽章の中間部(レーーードシレドシ)をとても音楽的にルバートしながら弾いていたのですが、「それじゃ落ちる」と言ってやめさせました。

 

 

8:30〜のところです。

 

レーーードシレドシ ラド-シラシドラファラソファソラ シドシラシドドレードシラソ ファミファソラシドレファ-ミレミ
というように、16分音符の感情の高まる音を長く弾いてしまうと、pizzicatoパートと呼吸が合わなくなります。オーケストラ奏者は、長さで表現するのを嫌う人が多いかな。
なぜなら、「一緒に演奏しやすいかどうか」も見ているからです。あなたが弾いているのを聴きながら、自分のパート・オーケストラパートを頭で鳴らしています。あまりにもスタンダードな演奏とかけ離れていると、落ちます。

 

音の長さで音楽的表現をしない方が良いです。微妙に変わる程度なら良いけど、2倍も音価が変わったら絶対にやり過ぎです。浦川先生が言っている「大事な音は長めに。2倍くらい長くても大丈夫だよ。」は、オーケストラのオーディションにおいては害になります。

 

ルバートはなしで、音色で勝負した方が良いと思います。

 

<ルバートが欲しい曲>

 

 

ブルックナー7番1楽章の冒頭が課題として出たことがあるのですが、第1テーマ(最初のトレモロが終わったところ)をサラサラと流れるように弾かれると興ざめです。ゆっくりとした、深い呼吸感が欲しい曲ですからね。こういう曲ではルバート感がないと逆におかしい。ルバートがあるんだけど、指揮者の拍感を持った上でルバートしてください。突然ある部分だけゆっくりにならないで、強く拍感を感じながら弾いてください。

 

スコアを見ながら、指揮を振るのも、音楽が体の一部になりますよ。私の家は、夜9時以降は練習できないので、CD聴きながらスコア見て、オーケストラ全体をイメージしていました。

 

 

しかし、ルバートが欲しい曲は、非常に少数派だと思ってください。オーケストラは、ルバート上手な人を探しているわけではないですからね・・。
いわゆる正統派、ツィンマーマンやヒラリーハーン、カントロフのような演奏が好まれるといったら、伝わるでしょうか。

 

 

 

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